今日から

日々を綴る

旅は

旅が好きだった。

夫が定年を迎えたとき、私の身体が既に不安を抱えていた事もあったし夫自身があまり丈夫ではないので、すっぱりと辞めてもらった。

10年間旅行が楽しめるといいねと当時夫は言ったが、私はそうねといいながら、5年かなと思っていた。


5年が過ぎて、ほぼ私が想像していた状況になった。あの時仕事を続けていたらこの5年間の思い出は作ることが出来なかった。


旅が終わると、私は一冊の記録を作った。写真やレシート、イラストで、沢山の思い出で、パンパンになった9冊のスケッチブックが残った。


男鹿半島から見た燃えるような夕陽は、それを思い出す時、どんどん実際よりも大きく赤くなって行く。


翡翠が拾えるという北陸の海岸でのこと。「杖振り回して走ってた人がいたなあ」と夫はこの言葉で何度も私をからかった。


美味しい喜多方ラーメンを食べに行ったのに、渋滞で目当ての店の開店時間に間に合わなかった。

有名どころだからそれ程ひどい店は無いだろうと入った店は、それ程酷くて、無表情無言で食べたのも今となっては笑い話だ。


楽しかった。本当に。


どうだったっけという細かい記録はスケッチブックの中にあるが、反対に、細かなことが削ぎ落とされたコアのようなものになって、それを見た時の思いと共に少しずつ形を変えて頭の中で一枚の風景画になって行くかのような不思議。


北海道にもう一度行きたいなあって言う夫。そうだね。来年、歩けるように10冊目が作れるようにがんばってみるって、そっと心の中で言ってみた。