今日から

日々を綴る

弟と

脳の手術の後、数ヶ月は不治の病も克服したかと思える状態だった。

その只中に弟と二人で、懸案だった旅をした。


目的は、父の妹の連れ合いが亡くなった時に(手術の直前だった)お参りが出来なかったので、父の兄妹でただ一人生き残っている叔母に会うこと、お墓参りをすること、叔母の住む同じ県内に転勤族だった私たちは5年ほど住んでおり、懐かしの地を訪ねるというものだった。


小学校低学年~中学年を過ごしたその地はいい思い出ばかりではないけれど、

人情に溢れた近所付き合いがあり、私たちは隣との垣根なんか乗り越えて潜入し、二階で下駄を作っているおじいちゃんと遊んだりした。数軒先の和菓子を作っている作業場に潜入した時は、おばさんがおまんじゅうを作らせてくれた。白餡を包んで芥子の実をチョンとつける。焼き上がったおまんじゅうを頬張り、子供達は引き上げる。

昭和は、遠い遠い追憶の彼方だ。


弟と二人での旅は最初で最後になるだろうと思って声をかけていた。

術後あんなに身体が動いたことはその後一度もない。ただの一度も。

ホテルから夜の繁華街に出て、生ビールと店自慢の焼き鳥で乾杯した。最高の気分だった。


ひとつひとつやりたいことを終えて行く。もしこの病気にならなかったら、「動けなくなる時期からの逆算」はなかっただろう。ひたひたと近づくその日に抗いながら、見据えながら毎日を過ごすことはよくよく考えれば100%悪い事ではないのではないか、くらいの気持ちで生きようとしています。