病院で
大学病院に行った。
血液検査と認知症の検査の為に。
認知症の検査は「今日は何年何月ですか」から始まり、記憶や記憶と運動能力について調べられた。
パーキンソン病の患者が認知症になる確率は7割と聞いたことがある。
最近の物忘れに恐れを抱かないことはないが、病気がそっちの方向に行こうとしているならなるようになれと思うしかない。そう思って来た。
果たして、五つの単語を覚えておいて、全く別のあれやこれやを調べられた後、さあ先程の言葉はと問われて、即答できたのは二語。ヒントをもらって思い出したのが二語。一語は消ゴムで消したように思い出せない。
いくつかの脳トレアプリもここ一ヶ月は放置していたが、続けていたら違っていたのだろうか。
などと思いつつ、その検査自体よりもこの病を得たことを改めて思い知らされたのが、検査してくれた女性の一言だった。書類を見ながら
「同じ年代ですね」
マスクの上から見える感じから確かにそれが分かった。
ドクターではなく、資格があるのでたまたま仕事を得たと話を進めるその人は、溌剌とした様子だった。
親しみを込めた口調で、ハリのある声で、質問を続ける。
人と自分の境遇を比べて羨んではならないと、銘のように内に刻んできた思いが目の前にいる人の前で霞んで行った。自分の心の動きは、むしろ意外だった。
私はその人の前で答えられなかったことが悔しかったのだ。
「out です」私は白旗を上げた。
検査が全て終わり、私がリュックを持ち上げた時、如才無い口調でキャメルの色が気に入って買ったものの重くて失敗だったなあと思っているmother house のそれを、「良い色ですね」と褒めてくれた。
「でもちょっと重いんですよ、これ。」
私は顔を上げ、その人に笑いかけて部屋を出た。