むすめ
次女から送られて来た荷物を開けた。
父には海外版の画集二冊。
私にはレモンイエローのトップスと白いキャミソール。
そうか。海外から取り寄せるってこういうこと。この画集のことね。
娘は先月まで世田谷文学館で開催されていた谷口ジローの展覧会に行ったらしい。そこで父親の好きなこの人の画集を送ろうと思った、、、らしい。海外版の方を。
それまで上げ膳据え膳で暮らしてきた娘が1人でどんな生活をしているのだろうと気を揉むことを一切止めるまで、ずいぶん長くかかってしまった。もう会うこともないかもしれない、それでも構わない。私も自立できたのかもしれない。
そんな思いで暮らすようになったここしばらく。
昨日、娘からの荷物が届いた。
絵を見に行こうというような気持ちで暮らしている。それだけで良いと思えた。
いや本当はそれだけではない。画集を見て胸がいっぱいになった。谷口ジローの描いた精密で情感に溢れた絵のでテーマがヴェネチアだったから。
大学卒業を控えた娘と二人で行った最初で最後の海外旅行。あの迷路のようなベネチアの街を娘は地図と少し前に歩いた記憶で、一度も迷わずに歩いた。娘の背中が頼もしく見えた。
。アドリア海に浮かぶ教会から見た本島の美しさが蘇る。谷口ジローは、あの海と空の色を思い出させてくれた。
「母さん、楽しかったよね」と言う娘の声が聞こえたような気がしたのは手前勝手というものだろうか。
まだ娘の中ではちょっとでも近付けば干渉してくる毒親なんだろうか、私は。
ま、いっか。
ああ、でもふらりと帰ってこないかなあ。寅さんみたいに。
それと、キャミソールのSサイズ、もう入らないのよ。太っちゃったからって、心の中で言ってみた。