秋風の吹く
玄関の小窓に掛けてある風鈴が涼やかに鳴った。
随分前になるが、夫と行った風鈴市で二人とも気に入って買ったものだ。
風鈴市の風情に夫は惹かれるようだ。ガラスが好きなので、愛らしい形と音に惹かれ、幾つかを買った。
小樽硝子、江戸切子、陶器製の素朴な音色にも足が止まり、笠間焼だったかを買ったこともあったが、残念なことに全て割れてしまった。
中で唯一残っているのが南部鉄の現代的なデザインのものだ。
重量があるので、ガラスのものとは違い、滅多に鳴らない。
風鈴は音が聞こえる範囲の魔除けと聞いて以来、ずっと吊るしてある。それが稀にチーンと澄み切った音を立てる。風が吹いてる?
ほんとうに不思議な間合で、不意を突いたように聞こえてくるのだ。小さく囁くようでもある。
嫌なこと、辛いことが続いて、風水が気になったことがあった。あれをこっちに移し、これを取っ払って事態が良くなるなんてことが有ればいいなと希望を持ちたかったのだ。最初から奇跡が起こることなどないとわかっている。
そしてそんなことも忘れた頃、すーっとまっすぐな線を定規で引くように、澄み切った硬い金属の音が響く。
秋風が吹いている。